セメント樽の中の手紙
作:葉山嘉樹
ネタバレ🈶⚠️
超短編なので青空文庫で読むことをオススメしてます。
あらすじ
生活に余裕のない労働者である土工の松戸与三は、仕事中にセメント樽から小さな箱を見つけ、終業後にその中の手紙を開く。
手紙では、女工には破砕器へ石を入れることを仕事とする恋人がいたが、ある日、恋人は破砕器に挟まってしまい、石と共に砕かれ、細かな石となり、焼かれ、骨も肉も魂も恋人の一切は「立派なセメント」になってしまったことが伝えられ、このセメントが何に使われるのか知りたいと返事を求められる。
手紙を読んだ与三は子どもたちの声で我を取り戻し、へべれけに酔いたい、何もかもぶち壊したいと怒鳴る。与三は「細君の大きな腹の中に七人目の子どもを見た」として物語は終わる。
感想
与三の日常の労働風景が描かれる第一部では、セメントが鼻に詰まっている様子を長く書いている。
日常的にセメントを体内に取り込んでいること、雑な扱いをここで細かく描写することで、第二部女工からの手紙で明かされる、"立派なセメント"になってしまった恋人の悲惨さがより際立つ。
骨や肉、魂が練り込まれたセメントを体内に取り込んでいるかもしれない。遺体入りのセメントで出来た道を歩いてるかもしれない。という与三と読者の感じる恐怖。
自分の身体が混じったセメントが土工の鼻毛をしゃちこばらせているかもしれない。無数の人に踏まれ続ける道になるかもしれない。という悲愴感。
その事実を知ってもどうすることも出来ず、増える子供のために働き続けなればならない現実が、なんとも虚しく胸に残る。
初見では女工からの手紙で、肝を冷やし、大正文学の良さを噛み締め。
読後のなんとも言い難い空虚な感覚が癖になり、定期的に読み返したくなる私好みの作品だ。