今日も満員電車で押し潰される
電波の切れた音楽を聴くふりして
ぼんやり車内を眺めていた

初めは金ピカのカバンが映った

座席に座り、一心不乱に
かぎ編みをしている男性がいた
ピカピカ光る金色のバッグからのぞく
編みかけの物は何を編んでいるのだろう
気になって目が離せなかった

お坊さんを想起させるツルツル頭の真ん中に
ちょこんとお団子がのり、
黒縁めがねの奥にある表情は繊細で
自身が編んだと思われるダークモス系の
贅沢で幅広いマフラーを巻いていた

深煎りした茶葉の色したマフラーも
よく見れば数段ごとに色が違う
全てが衝撃的だった

なんて素晴らしいセンスかしら
渋い…渋いわ！

くるくると回る手元から1本の毛糸が
吸い込まれるように形作っていく様は
見ていて飽きない

胸が高鳴った
無常な乗り換えのアナウンスが
これほど後ろ髪を引かれるなんて…

今まで同じ電車に乗り続けているが
見かける事も無かった
ああもう2度と会える事も無いだろう

これが恋なのかしら…



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