ぼたぼたと血がしたたるように
真っ白な雪道に椿の花が落ちている

吐く息も凍える、しんと冷えた蒼い世界
無音のなか霜柱がザクザクと音を立てて鳴る
かじかんだ手足が痺れた

とった宿は駅から遠く、歩くうちに
迷い込んだ細道は終わりがないまま
くねくねと続く

亡くなって久しい祖父の家を
訪れる気になったのは
あの日の思い出の品のせいだ

生前器用だった祖父は
からくり箱を作ることが多く、
仕掛けを外す様は知恵の輪のようだった

いつだか正月のおり、
祖父の胡座に座り込んでいた所へ
からくり箱を胸元からだした祖父は
中に小さな宝物を入れたと言った

内緒だ

祖父は誰にも相談せずに
その箱を開けたら中身をくれてやると
ひそひそと言って箱を幼い私に握らせた

箱は開くことは無かった
やがて祖父は亡くなり
押入れにしまわれていたが
8回目の法事の際、祖母が奇妙な事を
言うので思い出した

祖父が独身時代から使っていた箪笥の鍵が
いくら探しても見つからず
そのまま処分するには気が引けると
鍵屋に頼もうかと祖母は言っていた
(続く)


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