「K、咀嚼は初めてじゃない」
「はい。嘔吐もしてみたいです」
お前の事はわかり切っていると、カルテに歪な円を描きながらも思案する。
(私の日記を読んだのだろう)
段々と興味,嗜好がこちらへと傾いてきているといった様子に自然と口元が弧を描く。
「さあ、初めましょう」
このホテルのオリエンタルな雰囲気は彼によくよく似合っている。
ただそれだけという理由で珍しくコーナーソファを始点とし、淫らな行為を開始した。
そっと弦を弾くと震えて音を出すお前は私だけの琴だろうか。
反応は声帯だけに留まらず、全身で大きく快感を伝え跳ねるKはいつだって私を歓喜させる。
「気持ちがいいかしら?その声が聞きたかった」
上に跨り耳元で囁くと既に溶けきった目元には長く美しい睫毛を伏せ、それは月夜の様な陰影を落とした。
「はい、はい。有難うございます」
「とてもいい子ね」
腸内洗浄及び排出後も呼び寄せると
「偉かったわね。頑張っていた音がたくさん聞こえていたわ」
ときつく抱きしめ背を撫でる。
全てを溶かし,愛し,絶えず嬌声が鳴り止まぬ空間で幾度となく行われた寸止めが寸止めではなくなってしまいそうな頃..
「ご飯にいたしましょう」
と、再びソファへと手招き咀嚼を開始。
「では、いただきます。ほら、お前も"いただきます"は?」
「いただきます」
柔らかなシフォンを包むクリームを胸の飾りに塗りたくると
私は一口のみフォークを使いごく普通に味わった。
「とっても美味しい。お前も一緒に食べたいのでしょう?」
二口目を口に入れると舌を出すように促し、燕の雛かの様に口を開いたKに其れを与える。
「有難うございます。美味しいです」
刹那、忘れ去られていた胸のクリームをベロリと舐め取ると躑躅色の雷鳴が轟く。
「ああああ」
「ねえ、本当に本当に美味しいわね?」
「ああああああ」
「お前の体温が高すぎて溶けきってしまっているじゃない」
「申し訳ございません」
あんなにも頻繁にセッションを重ねていたお前なのに近頃はめっきり顔を見せないのね。
あの表情と嬌声を。目に、耳にしたいのよ。