我が身よりあくがれ出づる
たまかとぞ見る "
訳
物想いをしていると
沢を飛び交っている蛍の火も
自分の身から離れ、さまよい出た魂
ではないかと見えたことだ。
1000年も昔、和泉式部は
貴船神社近くにある川面で
舞っているホタルを「憧れ出づる魂」
と詠みました。
![](https://img.dto.jp/diary/636/873/079c79412cea896f0f5eb71a64969953.gif)
自分の御霊が、この肉体から離れて
あの無心に舞うホタルのようになれたら
どんなに良いだろう。
女性は好きな男性を待つしか
なかった時代。
人を愛することに疲れて
何もかも放り出して死んでしまいたい。
想い患う人の心は令和の今の世にも
変わらずあるものです。
またこの歌には続きがあります。
浮かんだ歌を書き留めたとき
和泉式部の頭のなかに声が聞こえて
きたのです。
![](https://img.dto.jp/diary/636/873/f0fa4397103359efcb5159cf8a891174.gif)
" 奥山にたぎりておつる滝つ瀬の
たまちるばかり物な思ひそ "
貴船神社の奥にある山で
たぎり落ちている滝の瀬のように
魂が散ることばかりを想っているのか?
" 死にたいと願わなくとも人は
いつかは命果てるもの。
そんな深い想いにふけると
自分が破滅してしまうからやめなさい "
それは貴船に祀られている御祭神の声
亡くなった2人の殿下の声
和泉式部の心が生んだ幻聴かもしれません。
ともあれ式部には、その声が聞こえ
そして彼女は歌を短冊に書き留めました。
これが、いまに伝えられている
2つの歌です。
和泉式部がこれほど
深い闇を心に抱えた理由は
その前半生が裏切りと激しい恋の
連続だったからかもしれません。
恋多き波乱万丈な和泉式部の人生は
決して幸せなものではなかったかも
しれません。
しかし、だからこそ
彼女は歴史に残る素晴らしい
歌の数々を遺したのだともいえます。